AIで給与計算は危ない? 危ないのはAIではなく「答え合わせの仕組み」がないこと
「Claudeで給与計算アプリを作った」は危ないのか
先日、ふと見かけたポストがあります。ある税理士さんのX投稿で、顧問先から「Claudeで作った給与計算アプリで給与計算を始めた」と連絡が来て、それはやめてほしかった、という内容です。
理由として挙がっていたのは、給与は覚えることが多すぎるという点です。社会保険の標準報酬、課税と非課税、雇用保険料率、住民税、割増賃金、有給、源泉所得税。しかも毎年どこかが変わります。見た目のきれいな明細が出てくるから、間違いにも気づけない。だから給与だけは市販ソフトにしてほしい、というわけです。
言いたいことはわかります。でも僕は、この意見は半分正しくて、半分ずれていると思っています。実は僕自身、自分の給与をAIに作らせたプログラムで計算しているからです。
AIが計算しているわけではない
まず誤解されやすいところから。「AIで給与計算」と聞くと、毎月AIに「今月の給与を計算して」と頼んでいる姿を想像するかもしれません。それは確かに危ないです。AIは文章を作るのは得意でも、細かい計算を毎回正確にこなすのは苦手だからです。
僕がやっているのはそうではありません。AIに作ってもらうのは「給与を計算するプログラム」です。計算するのはプログラムで、同じ数字を入れれば毎回必ず同じ答えを返します。電卓が気分で答えを変えないのと同じです。

「覚えることが多い」という点も、むしろプログラム向きです。料率や計算ルールを整理して、表や条件として書き込むのはAIの得意分野です。人間のように忘れたり、うっかり読み違えたりもしません。市販の給与ソフトも、結局は人が法令を読んで作ったプログラムです。作り手が人かAIかの違いでしかありません。
僕の給与計算は、こう回しています
具体的に、僕のやり方を紹介します。僕の会社は小さく、給与計算の対象は代表である僕自身の役員報酬です。

ポイントは3つ目です。社会保険料は、年金事務所から毎月、実際に納める金額の通知が届きます。これはAIともプログラムとも無関係な、いわば「正解」です。自分の計算結果とこの数字が合っていれば正しい、ずれていればどこかがおかしい、とすぐにわかります。
正直に言うと、これまで間違えたこともあります。でも、この照合のおかげで気づけて、すぐに直せました。
大事なのは「間違えない」より「気づける」
ここが一番伝えたいことです。人間でも間違えます。市販ソフトでも、設定を間違えれば間違った明細が出ます。「絶対に間違えない仕組み」は、どこにもありません。
だから考えるべきは、次の2つです。
- 間違えたとき、どうやって気づくか
- 気づいたとき、どう直すか
僕の場合、気づく仕組みは役所の通知との照合でした。ただ、何でも役所が答えを教えてくれるわけではありません。何と照らし合わせるかは、項目ごとに先に決めておきます。
| 項目 | 何と照らし合わせるか | いつ |
|---|---|---|
| 社会保険料 | 年金事務所から届く、納める金額の通知 | 毎月 |
| 源泉所得税 | 国税庁の税額表 | 報酬が変わったとき |
| 残業代・有給(従業員がいる場合) | 勤怠と支給額を、別の計算で確かめる | 毎月 |
従業員の給与を扱うなら、なおさらです。残業代や有給には、役所からの答え合わせがありません。勤怠と支給額が妥当かを別のやり方で確かめる、といった仕組みまで、最初に決めておきます。
一つコツがあります。AIが作ったものをAIだけにチェックさせると、同じ思い込みを見逃すことがあります。チェックの基準は、役所の通知や公式の表のように、AIとは別のところから持ってきましょう。
人間とプログラム、どちらが信頼できるか
プログラムの間違いには特徴があります。一度間違えると、毎月同じように間違え続けることです。これは怖い面ですが、裏を返せば、一度直せばずっと正しいということでもあります。
人間の間違いは逆です。その月の体調や忙しさで、どこに出るかわかりません。直しても、来月はまた別のところで間違えるかもしれません。

答え合わせの仕組みがあるなら、僕は人間の手作業よりプログラムのほうが信頼できると思っています。疲れないし、手順を飛ばさないし、同じ入力には必ず同じ答えを返すからです。
裏を返せば、税理士さんが心配していたのは、おそらくこの答え合わせの仕組みがない状態です。作った人に給与の知識がなく、答え合わせの方法も決めていない。それなら確かに危ない。つまり「AIだからダメ」なのではなく、「仕組みがないからダメ」なのだと思います。
まとめ
- AIに毎月計算させるのではなく、AIに作らせたプログラムに計算させる
- 役所の通知や公式の表など、AIとは別の「正解」と照らし合わせる
- 間違えたときに気づく方法と、直す方法を先に決めておく
ここまでやれば、それはもう「AIまかせ」ではなく、ちゃんとした仕組みづくりです。そしてこれは、エンジニアでなくても身につけられる考え方です。
怖がって手放すのではなく、気づける仕組みと一緒に使っていきましょう。
AIで作ったものの「作ったあと」については、こちらにも書きました。→ 社員が「AIでアプリを作れます」と言ったら。経営者が考えるべき「作ったあと」のこと
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フォワード フィールド テクノロジーズ株式会社 代表取締役。 1996年から業務システムの保守・開発に従事。官公庁・保険・製造業を経て、2007年からコンサルティング会社の開発部門を統括。2026年にFFTを創業。一般社団法人日本生成AI推進協会 技術部長。
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